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キャズム理論から新規事業の成功を見極める方法


投資コラム

 はっしゃんです。今日は成長株投資家の視点から、キャズム理論について考えてみたいと思います。
 キャズム理論は、特に消費者向けの新規事業やイノベーティブな商品・サービスの成功可否を見極める分析方法として有用です。

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キャズム理論とは

 成長株投資では、投資先の新規事業やイノベーションが成功すれば大きな報酬を受けることが可能ですが、失敗すれば損失を被ることになります。
 したがって、新規事業やイノベーションが成功するかどうかの監視が必要となるわけですが、このようなケースで有用なのが「キャズム理論」というマーケティングの考え方です。

 キャズム理論は、アメリカの経営コンサルタントでイノベーション戦略研究家でもあるジェフリー・ムーアが提唱したマーケティング理論です。
 キャズムとは「溝」を意味する言葉で、マーケティング分野で「市場に新規商品や新規サービスを普及させるときに存在する克服すべき課題」を表す言葉です。

キャズム理論に興味がある方は、ランチェスター戦略も参考にしてください

キャズム理論の概念図

キャズム理論の概念図は次のようになります。

キャズム理論の概念図

5つの消費者グループ

 キャズム理論(イノベーター理論とも呼ばれます)では、消費者の特性を5グループに分類します。そして、イノベーティブな商品やサービスが市場に浸透していくプロセスを5つの消費者タイプから考察します。
 従って、消費者向けビジネス(小売業、飲食店、サービス業など)の分析にマッチした考え方といえます。

イノベーター(最初の2.5%)

 新しい者好きの人。商品やサービスの先進性や目新しいトレンドに価値を感じる消費者グループで、商品の品質にはそれほど関心を持たない層です。

アーリーアダプター(2番目の13.5%)

 インフルエンサー。新しい商品やサービスに興味を持ち、その品質やメリットを重視する消費者グループです。新規事業やイノベーションの伝道者として普及に大きな役割を果たします。
 商品やサービスをいち早く評価し、影響力を発揮するため、このアーリーアダプターに支持されるかどうかが新規事業やイノベーション成功の鍵になります。

アーリーマジョリティ (3番目の34%)

 追随する人たち。アーリーアダプターの影響を強く受ける層で、話題の商品やサービス(の評価に)に追随して受け入れる消費者グループ。
 SNSでインフルエンサーの評価を拡散したり、口コミを広げ、商品やサービスを市場全体へ拡散・浸透させる重要な役割を担います。

レイトマジョリティ (4番目の34%)

 熟考する人々。新商品や流行をすぐ受け入れるのではなく、その使用感や評価動向を見極めたうえで採用する堅実な消費者グループで、コストパフォーマンスも重視しがち。
 人気が高まり、普及率が高まるにつれて動く傾向があります。

ラガード (最後の16%)

 保守的な人々。新しい商品やサービスに興味を持たない保守的な消費者グループ。
 既存の商品やサービスを長く使い続けたり、価値観を変えないことを優先するので、新しい商品やサービスが大部分まで普及した後、それを使わないと不便だと実感してから受け入れます。

消費グループの特性

 これら5つの消費グループ特性で面白い点は、同じ人でも市場カテゴリーによって立場が入れ替わるということです。例えば、ハイテク製品ではアーリーアダプターの役割を果たす人が、ファッション分野ではラガードだったりするといった具合です。

 みなさんの周りを見渡してみると、あの人はラーメン店に関してはイノベーターだなとか、あの人はゲーム分野のインフルエンサーだなとか、新しい者好きだったり、他の人に影響を与えている人がいるのではないでしょうか。

初期市場とメインストリーム

 キャズム理論では概念図のように、5つの消費者グループのうち、アーリーアダプターとアーリーマジョリティの間に深い溝(キャズム)があるとされます。市場シェアでいうとそれは、消費者全体の約16%まで浸透したあたりです。
 そして、キャズム理論では、最初の16%までを初期市場、残り84%をメインストリーム市場と区別します。

◎初期市場(16%)
 イノベーター+アーリーアダプター
◎メインストリーム(84%)
 アーリーマジョリティ+レイトマジョリティ+ラガード

キャズム理論の概念図

 キャズム理論では、消費者シェア16%を超えてアーリーアダプターからアーリーマジョリティへと達した新規事業やイノベーションは一気に普及し、成功へと加速していくのに対し、キャズムを越えられなかった新規事業やイノベーションは、16%付近までで頭打ちとなり衰退していくとされます。これが「越えがたい溝(キャズム)」というわけです。

分析対象を世帯普及率で見るような大型商品で考えると分かりやすいですが、特定市場の商品やサービスの市場シェアも分析可能です。
 
例)
 ランドセル:小学生の100%に普及
 携帯電話:ガラケー、スマートフォン(うちiPhoneは?)
 QR決済サービス:PayPay、楽天ペイ、LINE Payなど
 自家用車:普通車(うちEVは?)、軽自動車
 
 成長企業に投資する場合、どのようなビジネスを展開していて、その市場が成長が見込めるものなのか。その市場の中でどの程度の市場シェアを獲得しているかをキャズム理論で見ていくとよいでしょう。

 新規事業やイノベーションが顧客に受け入れられる過程で溝が発生する理由は、初期市場層とメインストリーム層における消費者の価値観の違いにあります。

初期市場層の価値観(最初の16%)

■イノベーター+アーリーアダプター
 新しいこと自体が自身の価値観と一致していて、今後トレンドになるかもしれない商品やサービスをいち早く取り入れることや、それを評価し、新しい良いものを広めることに喜びを覚える顧客層です。

メインストリーム層の価値観(残り84%)

■アーリーマジョリティ+レイトマジョリティ+ラガード
 評価の定まった信頼できるものを追随して採用する傾向にあります。安心して利用できるものや、他でも広く使用されている実績があるものなのかなど、目新しさよりも信頼や実績、実益を重視する顧客層です。

キャズムを乗り越えるために

 新規事業やイノベーションがキャズムを越えるためには、商品やサービスの仕様や宣伝方法を、当初は初期市場向けの「目新しい」ものとし、メインストリーム以降は、「安心」や「利用メリット」「実益」を訴求するものへと転換していく必要があるということです。

 例えば、最初期には、目新しさや新機能を強調したマーケティングを行い、初期市場からメインストリーム市場に移ってからは「安心」や「導入メリット」を中心に訴求したり、より普及させるために機能を単純化したり、品質を落としてでも価格を下げるというような戦略です。

(初期市場向け)
 先進性、機能性、カッコよさの訴求
 SNSやネット広告が有効
 
(メインストリーム市場向け)
 安心、実績、低価格、導入メリット、体験談など
 新聞やTV広告が有効

 みなさんも、画期的な新商品が機能や先進性を前面に出した広告を打ったり、普及したあとの第2弾、第3弾になると、廉価版が出てくるなどのマーケティング手法を見たことがあるかと思います。それらは、キャズム理論をベースとした手法です。

イニシャルコストの考え方

 新商品や新サービスの立ち上げ時には、タレントを起用したり、大型イベントを開催したりするなど、派手なプロモーションが行われることがよくあります。
 このような広告宣伝手法も初期コストをかけて、一気にキャズムを超えてしまおうというキャズム理論をベースとして手法であることが分かります。
 そして、キャズムを超えてしまった後は、様子を見ながら市場への浸透を図っていくというわけです。

廉価版(値下げ)戦略の考え方

 キャズムを超えた商品の普及を一気に進めたい時や、市場シェアをさらに拡大させたい時によく用いられるのが廉価版(値下げ)戦略です。
 廉価版の戦略が有効なのは、メインストリーム市場の後半にあたるレイトマジョリティやラガードといった保守的な顧客層です。彼らは、目新しさよりも信頼や実績、実益を重視する顧客ですので、企業側でも余計な機能を省くなどして上位商品と差別化したうえでコストダウンを図り、量産効果を確保しつつ、値下げで市場浸透をはかっていくというわけです。
 例えば、iPhoneであればSEシリーズがそれに当たります。

ネット広告とTV広告の使い分け

初期市場とメインストリーム市場の戦略でよく見られるのが広告宣伝媒体の使いわけです。

 初期市場:SNS、ネット広告
 メインストリーム市場:新聞、TV広告

 新しいもの好きの初期市場がネット広告向きなのに対して、保守的なメインストリーム市場がテレビ広告向きというわけです。
 TV広告はネット広告と比較して多額の費用がかかりますが、初期市場を攻略してキャズムを超えている場合、その広告効果から量産効果が期待できたり、費用対効果もある程度計算できるため、ハードルが下がっていることでしょう。
 スマホアプリやスマホゲームでも、キャズムを超えてからTV広告を開始するサービスがよく見られます。

インフルエンサーの重要性

 もうひとつ、キャズムを乗り越えるために重要な要素が、初期市場でアーリーアダプター(インフルエンサー)に評価してもらえるかどうかという部分です。
 新規事業やイノベーションの実現が顧客の選択に委ねられている以上、この視点は欠かせません。アーリーアダプターから、「良い商品・良いサービスだよ」というお墨付きを得て、次のアーリーマジョリティへ伝播してもらう必要があるというわけです。なぜなら、アーリーマジョリティ以降の顧客は追随者であり、評価の定まらないものを自ら試すことはないからです。

 逆を言えば、アーリーアダプターの段階で、この商品やサービスは魅力的ではないと判断されてしまうと、そこで新規事業やイノベーションは失敗に終わることになります。
 最近、SNSなどではインフルエンサーを活用したマーケティング手法を見かけることが増えてきましたが、これはキャズムを越えるために積極的にインフルエンサーを取り込んだ宣伝手法と言えるでしょう。

ほとんどの新規事業は失敗する

 はっしゃんは成長株投資家として多くの新規事業立ち上げを見てきましたが、その大部分が失敗に終わるというのを知っています。
 そして、成功する数少ない新規事業が、まさにキャズム理論のようにインフルエンサーから評判になってアーリーマジョリティ、レイトマジョリティへと伝播していくのも見てきました。
 成長株投資は、成長エンジンとなる新規事業を探して投資する投資法ですから、キャズム理論を知っておくことで参考になる点が多いと思います。

新規事業で成功した7つの10バガー株の具体例も研究してみましょう

まとめ

 いかがでしたでしょうか、今回は成長株投資の視点からキャズム理論を考えてみました。
 このように、新しい価値の創造者である企業は、新規事業やイノベーションを成功させるためにさまざまなマーケティング戦略を駆使して市場を攻略していきますが、それらには共通点があります。

 したがって、投資家サイドもそのプロセスを理解し、ウオッチすることで、企業が考えている新規事業やイノベーションの浸透度や成功具合を分析、投資判断につなげることができるわけです。

 そして、もし投資家自身が投資カテゴリーのインフルエンサーであれば、極めて有利な立場で投資できることも分かりますよね。得意分野に投資することの重要性はこのような点でも分かります。

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