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<7312>エアバッグ死亡事故多発!タカタ倒産の疑問と真相


発掘チャート
上場廃止までのタカタの株価チャート

今回はエアバッグの大量リコール問題から、
負債1.5兆円と戦後最大の製造業破綻になった
タカタの株価チャートを紹介します。

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エアバッグ死亡事故の背景

火薬の素材変更

自動車には、衝突時の衝撃から安全を確保するために、
エアバッグが搭載されています。

エアバッグにはインフレーター(ガス発生装置)
という部品が組み込まれていて、火薬を爆発させて、
バッグを膨らませる仕組みになっています。

このインフレーターで使われる火薬の素材変更で
想定外の状況が発生
しました。

■火薬素材変更の経緯
1.既存のアジ化ナトリウムが吸入毒性の問題から使用禁止に
2.代替として硝酸アンモニウムと硝酸グアニジンが候補に
3.硝酸アンモニウムは高性能だが、技術難度が高く競合メーカーは敬遠
4.タカタが硝酸アンモニウムの実用化に成功しエアバッグに搭載

性能に優れたタカタのエアバッグは、多くの人命を救い、
世界シェア第2位の地位を占めるまでになりました。
しかし、硝酸アンモニウム固有の問題が見落とされていました。

火薬と経年劣化

エアバッグの動作保証年数は10-15年程度です。
通常、火薬は経年劣化により不発化し、
衝突時に膨らまなくなりますので、
インフレーターの交換が必要となります。

一方、硝酸アンモニウムは経年劣化により、
暴発の危険性
が指摘されていました。
逆に火力が強くなりすぎて人に危害を与えるリスク。
タカタは、この問題を相安定化技術により解決したはずでした・・・

■硝酸アンモニウムの経年劣化メカニズム
1.硝酸アンモニウムをペレット状にして設置
2.温度の変化により膨張と収縮が繰り返される
3.ひび割れが発生しパウダー化が進行
4.火薬の表面積が大きくなって火力が上昇
5.衝突時に暴発して人に危害を与える

暴発は相安定化硝酸アンモニウムを用いることで、
解決したと言われていましたが、
高温多湿など特殊な環境下では、
うまくいかなかったようで、
製造から数年程度で暴発するリスクが指摘されました。

その後、乾燥剤を組み合わせるなど改良を行いましたが、
原因を特定できない暴発事例も報告され、
消費者の不審を払拭して安全宣言を急ぎたい
メーカーから見放された形になってしまいます。

タカタのエアバッグは、多くの人命を救いましたが、
10人以上の人命を奪うことになっていたのです。

死亡事故までの経緯

タカタのエアバッグは、本田宗一郎氏の頃から関係が深く、
資本関係もあったホンダ車に多く搭載されていました。
暴発事故もホンダ車から発生しています。

■死亡事故までの経緯
1998年頃? 火薬に硝酸アンモニウムが使用されはじめる
2004年 ホンダアコードで最初の暴発事故が発生(米国)
2007年 ホンダのタカタ製エアバッグで暴発事故が相次ぐ(米国)
2008年 暴発による死亡事故が発生。リコール開始(米国)

リコールと初動の問題点

暴発事故の初動で気になる点は、
硝酸アンモニウム劣化による
暴発リスクが共有されていない
と思われる点です。

品質に自信を持っていたことが伺われますが、
相安定化技術にほころびがあれば、
人命にかかわることは分かっているはず

少なくとも暴発事故が頻発しはじめた
2007年にはリコールできたはずで、
この時点でリコールできていれば、
経営破綻はなかったかもしれません。

なぜリコールできなかったのかといえば
 1.隠蔽工作
 2.想定外としての不作為
 3.情報共有不足
 4.知識不足
などが考えられますが、
リコールはタカタ単独では行えません

タカタ社内、あるいはタカタとホンダの間での
情報共有に問題があった可能性もありそうです。

 リコール隠しや燃費改ざん事件などの不祥事で国民の信頼を失ったのが三菱自動車です。

リコール拡大から倒産まで

倒産までの経緯

リコールから倒産までの経緯は、
以下の通りです。

■倒産までの経緯
1.アメリカを中心に暴発事故が頻発
2.製造工程ミスを理由にリコール
3.ミスのない製品でも暴発事故が発生
4.タカタ、暴発の原因を特定できず
5.メーカー独自の判断でリコール対象拡大
6.ブランド失墜。タカタ外し加速
7.民事再生法を申請して倒産

タカタ経営陣の対応

リコール拡大の中で問題があったのは、
タカタ経営陣の対応です。
消費者やメーカーに対して
誠実な対応と謝罪をすべきでしたが、
致命的な経営ミスを犯します。

社長である高田重久氏は、
傲慢な会社にありがちな、
 原因が特定できない=ウチは悪くない
的なアナウンスをしてしまい、
反感を買うことになったのです。

倒産企業リストは、社会的な役割を終え、消えていった企業の尊い墓標です。

消えた自動車メーカーの責任

一次責任の所在

さて、この問題はタカタだけが悪いのでしょうか?
タカタは、部品メーカーに過ぎません

自動車メーカーには製造物責任があり、
リコール責任もあります

リコール初動の遅れは共同責任ですし、
原因特定できないのも共同責任です。

なぜなら、エアバッグとインフレーターは、
タカタと自動車メーカーとの共同開発だからです。

自動車メーカーには、安全なクルマを提供する義務があり、
そのために品質テストを実施しています。

エアバッグの設置条件はクルマによって異なりますので、
クルマごとに耐久試験が実施されているはずです。
品質テストで想定外の見落としがあったとすれば、
自動車メーカー側にも落ち度はあったということです。

優越的地位

自動車メーカーは優越的な地位にあります。
タカタのインフレーターが使えなければ、
他社インフレーターを使えばよいからです。

ブリヂストンとフォードの間にも似たような問題がありましたね。

インフレーターの単価は数千円だそうですが、
リコール費用は1万円超。

タカタ技術陣が原因を特定できなかった点もありますが、
この問題はインフレーター単独ではなく、
クルマの設計や耐久性能も絡む複合課題です。

タカタ経営陣が不誠実な対応で、
反感を買ったこともあり、
守りきれなかった面もあることでしょう。

ホンダのタカタ外し表明をきっかけに、
自動車メーカー各社のタカタ外しが加速し、
命運は尽きてしまいました。

結局、タカタは民事再生法を選択し、
世界シェア第2位の名門企業の経営権は、
中国系企業の手に渡りました。

自動車メーカーはリコール費用肩代わりの損失こそ被ったものの、
タカタを悪者にすることで、ブランドを守ることができました。

そして、暴発の真相は、いまだ判明していません
これで、よかったのでしょうか。

日産自動車も検査不正やカルロス・ゴーン逮捕など不祥事が続いた自動車メーカーです。

発掘チャート<7312>タカタ

■日足チャート(2017年2月-2017年7月)上場廃止までのタカタの株価チャート

タカタの株価はリコール問題で下落しましたが、
それでも500円前後で推移していました。

タカタとメーカーとの責任の所在が不透明で、
倒産しない可能性も十分あったからです。

日本経済新聞が民事再生法の記事
スクープしたのが6月16日。
タカタ株には売りが殺到して、
株価は3日連続でストップ安売り気配となり、
4日目に126円で寄りつきます。

そして、民事再生法申請は6月26日。
その後はマネーゲーム的な荒い値動きになりましたが、
最終的には7月26日に18円で市場から退場します。

倒産株は1円まで売られるのが普通ですが、
復活の思惑もあり、意外高の退場劇でした。

同時期に破綻した企業に日本航空がありますが、こちらは企業年金や組合が問題でした。

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あとがき

私たちは株価チャートを
結果から見て評価する傾向にありますが、
実際の相場は現在進行形ですから、
当時の業績や市場期待、需給を投影した
株価チャートは貴重な実録データです。

「賢者は歴史から学ぶ」といいます。
今も昔も株式投資の基本コンセプトは
「将来、値上がりしそうな株を買う」
ということで同じですから、
過去を知るということは、
未来を知ることに通じると思います。

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